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*葬列*
『私という個の存在は、空(くう)である』と唱えたのは、般若心経を読み説いたダライ・ラマ14世だったか。
いずれにせよ、今、この場所にあなたはいない。
あなたの体は残されたけれど、あなたという存在は全て空に溶けた。

だから、あたしはあなたの屍を見ない。綺麗に死化粧を施されていたとしても、これがあなたの姿を見る最後の機会だとしても、あたしはあなたの『残された体』を見る事に、何の意味も見出せない。
黒い服を着て、行列に並び、ハンカチを目頭に充てる人々を横目で見ながら、あたしは葬儀場の空気を胸に吸い込む。

涙の一滴も出ない。なぜなら、あなたはもうここには居ないから。
『最期のお別れを…』という言葉に乗せられて、屍に祈るなど御免だ。
あたしはあなたを愛していたから、心も魂も消えうせたあなたを見る事など出来ないし、したくもない。

焼き場に回れるのは親族だけだ。慾を言えば、あたしはせめてもの記念に、あなたの骨の一欠片でも盗んで手元に置いておきたかったけれど、それも赦されない。

『何もなくなったなぁ…。』呟いて、青い空を見上げた。
本当に、何も無くなった。でも、あなたはここに在る。降り注ぐ光となって、あたしを優しく照らす。
生ぬるい雨となって、あたしを洗い流す。太陽と月が入れ替わるように、あなたという存在は消える事が無い。
無い。無い。何も無い。
あたしが立っている芝生の地面も、冬の風に揺れる木々の葉も、少し離れた広場ではしゃぎ回る子どもたちの歓声も、何も無い。

―――ほらね。あたしも何処にもいない。
あなたを失った絶望は悲しみを通り越して、あたしを無我の境地まで浚って行ってしまう。

あなたの笑顔が好きだった。まっすぐな長い髪をいつも羨ましく思っていた。
箸の持ち方がおかしいと、食事をするたびに注意された。あなたの運転する車には、いつだって安心して乗れた。

思いだしたら、不意に涙が頬を伝って止まらなくなった。
やっぱり、あたしには無理だ。無我の境地に至る事も、あなたの屍をただの魂の抜け殻だと思う事も。
あたしは限界まで我慢していただけなのだ。平気な顔をして、この苦しみをやり過ごせればそれでいいと思っていただけだったのだ。

ごめんね。あたしには祝福できない。あなたが病に蝕まれた体という器から抜け出して自由になった事を。
本当の事は誰にもわからない。あなたが本当に痛みから解放されたのか、苦しみから解放されたのか。

あたしは葬列に並べずに、遠くから出棺の様子を見守っていた。
あたしは葬列に並べずに、少しだけあなたに最期のお別れをしなかった事を後悔した。

冷たい風が、濡れた頬を裂くように吹きぬけて行った。
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[2010/01/26 17:01] | 小説―light | コメント(0) |
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私の記憶の中から、思い出せる限りの事を『小説・文学』カテゴリに。   私の現在を、『ブログ』カテゴリに。

プロフィール

遊

Author:遊
Name:百瀬 遊(Yu Momose)
Birthday:01/28
Blood type: B
Sex:F

●がタイトルにつく場合ブログ、
*がタイトルにつく場合が小説です。

◆初期小説は、書き下ろしのノンフィクションを載せています。
※カテゴリ別に読んで頂ければ、多少なりわかりやすく表示されると思います。
※表記の多い、自傷、ドラッグ、売春はすでに卒業しています。
ドラッグと売春は犯罪ですので、(今更ですが)やっちゃダメな事です。
自傷は犯罪じゃないみたいですが、周りの人が痛いのであまりお勧めできません。
◆09年8月以降、フィクションを増やしていく予定です。
ノンフィクションの場合は題名に表記します。

※著作権・肖像権の侵害、あるいは転載などは禁止とさせていただきますので、よろしくお願いします。

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