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*アンプラグド*
世界は全てこの手の中に在る。
そう思っていた数年前の僕を、紙屑のようにくしゃくしゃに丸めて放り出してしまいたい。
部屋の隅には、埃を薄くかぶったままのギターケースと小さなアンプ。
ナイロン製のギターケースは今や、猫の爪とぎ用と化し、中に納められているギターは数カ月に一度取りだされて、二時間程度でしまわれる。

「音が違う。三弦をもう半音上げて。」
絶対音感を持つ彼女が、ベッドの上から身を乗り出して言う。
僕は違和感を覚えなかったし、KORGのチューナーもDを差している。
「違わないよ。チューナーだって合ってる。」
「違う。半音でなかったら、半半音。聴いてて気持ち悪い。」
そう言って彼女はベッドの上に戻り、枕に伏せていた本の続きを読み始めた。

日曜の昼下がり。天気はのどかな秋晴れ。
久々に日曜休みなんだし、どこかに遊びに行こうよ、と言う彼女に、僕は、今日はやめておこう、と返した。
晴天の日曜に表に出るなんて、ただ人混みに疲れるだけだ。
僕の仕事はシフト制で、たいてい休みは平日になる。月に一度あるかないかの日曜日の休日。
彼女と休みが合うのは日曜くらいで、他はほぼ毎日同じ時間に家を出て、同じ時間に帰ってくる。
つまんないの、と彼女は拗ねて、朝からずっとベッドの上で読書をしている。

僕の抱えたギターには、彼女が絵を描いてくれた。紫と抹茶色のアクリル絵の具で、見事な鉄線の唐草模様と揚羽蝶を。
僕は絵が描けないから、彼女が細い筆で下書きも無く、すらすらとギターに絵付けして行く様を見て素直に感心した。
それも数年前の事。世界が全てこの手の中に在ると思っていた頃の話だ。

あの頃、同じライヴハウスで対バンしたバンドは、なぜか今テレビの音楽番組に出演したりしている。
自分の持っていたバンドのほうが、将来有望と言われていたにも関わらず、僕は今、毎日パスタの茹麺器のタイマーを気にしながらフライパンを振るう毎日だ。

「ねぇ。」
「何?」
「やっぱり、あんた音楽やった方がいいよ。もう一度音楽やりなよ。それが一番合ってる気がする。」
彼女は僕がギターを出すたびにそう言うけれど、自分の才能の限界はもうわかっている。
「…そのうち、まぁ、追々考えるよ。」
僕はそうはぐらかして、フットスイッチを切り替える。

数年前、バンドを一緒にやっていたドラムの島村は、何に取り憑かれたのか、突然役者になるなどと言い出して、通っていた大学を辞めて胡散臭い専門学校に行ってしまった。
スリーピースバンドだったから、後に残ったベースのコユキと僕は自然と解散する方向へ進んだ。
島村以外のドラムがこのバンドに適応できるか、という問いに、否、という答えしか無かったからだ。
コユキはその後他のバンドに加入し、深夜帯の番組に出る程度には登って行ったが、ここ二、三年は音沙汰もない。
島村に関しては、行方不明だ。

「お腹すいた。何か作ってくれる。」
ベッドの上の彼女が、ギターコードやプラグをしまい始めた僕に向かって呟く。
彼女の長い髪がかかった価値ある耳は、出会った頃も今も、ピアスで埋め尽くされている。
「わかった。ペペロンチーノでいい?」
僕がそう問うと、彼女は、わぁい、と言って笑った。

ベランダで、風に舞い上がった枯葉が、からからと乾いた音を立てていた。
僕がたどり着いた世界の果ては、とても地味で、ありふれていて、アンプを通さないギターの音のように弱くて儚い、だけど平穏で優しいにおいのする日々だった。
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[2009/11/18 03:36] | 小説―light | コメント(0) |
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*My Blue Heaven*


私の記憶の中から、思い出せる限りの事を『小説・文学』カテゴリに。   私の現在を、『ブログ』カテゴリに。

プロフィール

遊

Author:遊
Name:百瀬 遊(Yu Momose)
Birthday:01/28
Blood type: B
Sex:F

●がタイトルにつく場合ブログ、
*がタイトルにつく場合が小説です。

◆初期小説は、書き下ろしのノンフィクションを載せています。
※カテゴリ別に読んで頂ければ、多少なりわかりやすく表示されると思います。
※表記の多い、自傷、ドラッグ、売春はすでに卒業しています。
ドラッグと売春は犯罪ですので、(今更ですが)やっちゃダメな事です。
自傷は犯罪じゃないみたいですが、周りの人が痛いのであまりお勧めできません。
◆09年8月以降、フィクションを増やしていく予定です。
ノンフィクションの場合は題名に表記します。

※著作権・肖像権の侵害、あるいは転載などは禁止とさせていただきますので、よろしくお願いします。

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