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●新連載、始めちゃいました☆*”●
皆さんこんばんわ。
この間のブログに、「新連載は日曜から」と書いたのですが、
…スミマセン、前倒しで載せさせていただきました。
今度の水曜日からは花屋(本職)が休みなしになってしまうので、先に書かせていただいた次第です。
これからは、毎週日曜日に載せていきます☆*”
タイトル・【Mobscene】かなりイカレタ物語、頑張ります。
よろしくお願いします^^
(時々、別小説も挟みますので、よしなに。)

百瀬 遊
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[2009/12/25 20:50] | ブログ | コメント(0) |
*Mobscene 1*
冷蔵庫の中の卵が一つ、割れていた。
白身が垂れて、冷蔵庫の中がべたべたになってしまった。
あたしはティッシュペーパーで割れた卵をくるんでゴミ箱に捨てた。
人間に食べられなかった無精卵は、煙草の吸い殻や借金の督促状と一緒くたになり、今夜ゴミ捨て場に捨てられる。

無精卵と言うだけで、食べられる以外は何の存在意義も価値も無い。
あたしみたいだ。孕まない子宮から毎月繰り返される排卵が疎ましく、いっそ孕んで小子化社会に貢献してみたい。

卵はいい。食べられるだけ人様のお役に立ってる。
あたしと言えば、ただの屑も同然だ。

だらしない部屋着姿の女に自分の白身を拭き取られながら、
卵は思った。―――自分のアイデンティティの謎がいつまでも解けない。

冷蔵庫の中を水拭きする女は、もともとちょっと頭がおかしい。脳障害とかそういうのではなく、生まれつき、悪を許して正義に唾を吐くような、人を殺しても良心の可責をまるで感じないような、どこかネジのゆるんだ人間だった。
それに引き替え、彼女の知るとある女は初雪よりも白く儚く純粋だった。
その純粋さ故に狂ってしまった彼女は、ブログだけ遺して泡のように消えてしまった。

狂ってしまった女が遺したブログは、まるで彼女の墓標のように時を止め、これから先も、ウェブの中に在り続ける。
何だか不思議だ。もう彼女は何処にもいないのに。

あたしは最後の日付の日記を眺める。淡々と、短い文章が数行綴られていて、それは彼女の独り言に過ぎず、何の感情も読み取れない。元々ものを書くのが苦手なようだった。
ブログに載せた写真も、何が撮りたいのだかよく分からない、偶然撮れたような一枚。昼日中、雑踏を行き過ぎる人波とその上を横切る高速道路。

彼女は去年のクリスマスに死んだ。彼女の事を『狂ってしまった女』と書いたが、彼女自身は不安定ながらも正気を保っていた。
狂ってしまったのは彼女の生活と人生で、それは周囲の影響に他ならず、それは彼女の細い体をじわじわと蝕み、壊して行った。

『あたしはこんな所で終わるつもりは無いよ。またちゃんとメンバー探して、今度こそバンドで食って行けるようになるんだ』
薄い安サテンのガウンの前をかき合わせながら、彼女―――蘭はそう言っていた。
誰にも相手にされない寂しい男の体を慰める仕事。
幾ら自分の体を洗っても歯を磨いても、鼻の奥に腐った水の臭いが染みついた毎日を送る中で、大抵の女たちは狂って行く。
否、こんな底辺で平気な顔をして笑い合えると言う事自体、もう正常な神経であるとは言えない。

ある女は両腕にカッティングの痕がびっしりと並んでいて、またある女はいつもぐずぐずと鼻をすすりながら、間仕切りの陰で白い粉を吸う。
『クスリ入れなきゃ、やってらんねぇよ、こんな仕事』
彼女はそう言って、赤剥けて血のにじんだ鼻の下を人差し指で擦った。

あたしが何故こんな場所にいるか、その答えはひどく単純だ。買い物依存から抜け出せなくなり、複数の金融会社に数百万単位の借金をし、それでも欲望は際限なくあたしを買い物へと走らせ、挙句、月賦の支払いも無視してあらゆるがらくたを買いあさる。
そんな悪循環の中で、私は自分自身を商品にする事に決めた。それは、実に単純且つ簡単な選択だった。
ここで働く女たちのほぼ全員が同じような事情を持つ。

精神疾患者の巣窟の中で、蘭だけが浮いていた。まるで高校の部室で他愛ないお喋りをするような無邪気さで、女たちと話し、指名がかかれば、
『んっ稼いできまぅす!』
と笑顔で二階に上がって行った。
そんな彼女が何故こんな場所にいるのか、こういう性格だからこそこんな仕事に勤めるのか、皆が不思議に思っていた。
怒鳴り散らしてばかりいる元締めのやくざも、蘭に関しては手のひらを返したように優しかった。
それは、彼女が上玉で、店の大切な稼ぎ頭であると共に、今なお健全な精神でもって客を取っているからだ。
まともな会話もせず、処理する事を終えたらさっさと席を立つ女たちとは違い、時間ぎりぎりまで上手に世間話をして客をリピーターにする。
事実、このハコに集まる客の半分は指名料を支払って相手を蘭に望んだ。

『彼氏に売られたの~。ほんとに』
開店前、蘭は煙草をふかしながらそう言って笑った。
『彼氏ね、プッシャーやってて。地元のヤーサンにシマで内緒でやってたのがバレて、半殺しにされて指まで切られちゃったんだよね』
今時、指詰めだよ、指詰め!蘭は声を立てて笑った。少しも自嘲的ではなかったのがやけに心に引っ掛かる。
普通はもっと泣いたり怒ったりするはずなのに、彼女は底抜けに明るかった。
『それでねー、彼氏、ウケるんだけど、去勢されそンなって。アソコ切らないかわりに女渡すからって命乞いして』
で、あたしの事マワさせてビデオ撮らせて、ここに売ったってワケ。
彼氏と?今も続いてるよ。一緒に住んでるもん。

『あんたそんな鬼畜とよく暮らせンね』
肌がシャブ焼けで青黒くなった女が横槍を入れる。蘭はちょっと考え、白桃のような頬を少し膨らませて、
『だってあたしには彼氏しか頼る人いないし。彼氏だってそう。最後の切札があたし、って結構幸せじゃない』
と言った。
『この店で誰が一番イカれてるか、よくわかったよ』
シャブ中の女は嘲るように笑って、水気の無い傷んだ金髪を背に払った。

フロアに置かれた古びた赤い別珍のソファはそんな女たちの会話を聞きながら、ここへやって来る前にいた、華々しい世界を懐かしむ。
バーレスク・アーティスト達がコルセットに身を包み、シルクハットを一斉に投げて、ポールに体を絡める情景を。
ブラボーと言う歓声と沸き起こる拍手や冷やかしを。
ソファの背飾りは真鍮で精緻な模様を描き、毎日開店前にはボーイの手で丁寧に磨かれていた。
このような場所に運び込まれるとは、露ほどにも思っていなかった。
日本という島国の、場末の精液処理場で、ジッパーを下ろした男が自分の擦りきれた布にふんぞり返り、ほとんど裸同然の女がその上に顔を被せる。
―――見たくもない世界。
―――感じたくもない世界。
このハコで唯一正気と言えるのは、他でも無い、物は言わずとも世を知った、このソファだけだった。

(続く)
[2009/12/25 20:32] | *Mobscene*(※休載中) | コメント(0) |
*吉原との別離*
『そうさまにお会いしとうござりんす…』
籠に乗り込む前に、常盤はあたしだけに聴こえるように、切ない小声で呟いた。

姐は籠に乗り、大門を出て行く。
お大尽に身請けをされて大門から娑婆へ出るのは目出度い事だけれど、姐女郎はこんこんと咳き込みながら、痩せた体を籠に預けている。

肺病に冒された体は力無く、着物を重ねると潰れてしまいそうに非力だった。
『鳥屋につくならまだしも、肺病とは。ゆっくり養生するんだよ。大黒屋さんがお前の面倒は全て見てくれるからの。治ったら、御恩返しにお内儀としてよく尽くすのだよ』
籠に乗り込む常盤に、総名主はそう言って聞かせ、常盤は力無くうなづいた。
『病でも何でもいいよ、この苦界から娑婆へ出られるなら。』
花里はそう呟いた。

『花魁、何処へ行くの』
『遠い所でござんすよ。辛抱しなんせ。すぐに帰って参りますからね』
いやじゃ、行かんで、と泣きながら袖に取り付く禿たちの小さな指先を、白い指先でそっとほどいて、常盤は態と優しい笑みを浮かべた。


大門から去り行く籠を見送った廊主が、
『これで松の位がおらんようになった。番付には必要な位だ。…さて、花菱、お前に役が務まるかい』
と刻みを煙管に詰めながら言う。
『…わっちでほんに良いのでありんすか。雛菊さんや白露さんが相応しいと、わっちは考えておりんす。何より、常盤姐さんの代わりが務まる身ではござんせんし…』

まぁ、明後日までには考えておいてくれ。そう言って廊主は煙管をくゆらせながら、見世に戻って行った。

楼廓に戻り、煙管盆の引き出しを開けると、そこには手紙が入っていた。

―――花菱さま
  此の度はまことにご苦労をおかけし、謝る言葉もござりんせん。
 花菱には、わっちが床についた時から色々お世話になりんした。
 毎朝、花菱が座敷へ持ってきて下さる粥はほんに有難い事でござんした。
 病の移りに怖じけず、血を拭い体を拭い、ほんに有難い事、お世話になりんした。

 こうして文を残すのは、もう戻られぬ身とみずから知っているからでござんす。
 自分の事は、自分が一番良く分かりんす。こうなると覚悟ももう決まって参りんした。

 気掛かりな事柄は多々ござりんすが、わっちの我儘だけを記すのであれば、そうさまの事、そうさまの事のみでありんす。
 そうさまはわっちの病を知ってから、世の噂も気にせず暇が出来ればわっちの座敷においでになりんした。
 高橋道場の跡取り婿が、吉原の遊女なんぞに入れ上げている様は、事の次第を知らぬ世間からはきっと白い目で見られんしょう。奥方にも申し訳なく思います。

 それでも、そうさまは世間の目も気にせず、病んだわっちを労い労り、ほんに優しうござりんした。
 御酒もたしなまず、体に悪いから、と猪口を隅にやって、いつも代わりに抹茶を立てて下さいました。
 わっちがこうして吉原を出れば、もうこれ以上、高橋道場の名に傷がつく事もありんせん。

 わっちが肺病に患ったのは、神仏のお思し召しだったのでござりんしょう。
 大黒屋様にお世話になり、伊豆国へと参ります。
 もう二度と、そうさまにお目にかかる事はござんせん。これで良いのでありんしょう。

 最後に、次にそうさまにお会いする事がござりんしたら、常盤はあなた様に頂いた大切な櫛一ツだけ持って行きんした、とお伝え下しゃんせ。

 花菱、お前はきっと良い花魁になりんす。この先も、精進しなんせ。
 勝手な願いながら、禿たちをよろしうお頼申し上げます。

 そうさまに、よしなに、よしなにお伝え下しゃんせ。

 さて、おさらば、でありんす。花菱さま、いつまでもお元気で。

―――常盤

あたしの頬に涙が伝い、真白な和紙に滲んだ。
『花菱、お前は泣き虫でありんすね…。見世出しの年頃になりんしても、泣き虫の儘では化粧が駄目になると遣り手に叱られんすよ。』
遠い日、あたしが禿であった頃、引き込み仕込みの厳しさにいつも泣いてばかりいたあたしに、姐はそう諭した。
そして、鶯色の絹小切れであたしの頬を拭き、それを手渡して、
『ほれ、お笑いなんし。笑っていれば、女郎だからこそ掴める幸運もありんすよ』
と、綺麗な白い歯を見せて笑った。

今生の別れ。左様なら。あたしは箪笥の奥に大切にしまっておいた小切れを取り出し、涙を拭った。
[2009/12/24 21:23] | 小説―light | コメント(1) |
●新連載、始めます●
お久しぶりです。素の百瀬です^^
さてさて、時折ほったらかしにしてしまっているブログですが、今月(といっても半分以上過ぎていますが)、新しく連載を始めます☆*"
前作『FRY ME TO THE MOON』では、恋心?温泉旅情??を描いてみたのですが、どうにも描写が上手くいかず、結局ありがちな恋愛小説になってしまいました。
…つまらなかったですね。
反省。

今回は、百瀬お得意の底辺モノです(笑)。
設定としては、場末の風俗店を舞台に、女たちが喋ったり、椅子(!)の心情を代弁したりします(謎)。

一年前のクリスマス、一人の狂った女が死んだ。
もともと「狂っていた」のは彼女ではなく、彼女は周囲に「狂わされた」人間だった。
場末の風俗店でその日凌ぎの仕事を続ける女たち、元締めのやくざ、欧州から輸入された椅子、割れた卵、そしてフェンスで焼かれるスモークサーモン…
誰もが道化で、何もかもが狂った世界。その中であたしは……

そんな感じの、へんちくりんな物語を描いていきます。

毎週日曜更新予定です。タイトルは未定。
合間に、また色々と拙作を挟んで行く予定です(暇があれば………)
よろしくお願いいたします☆

百瀬 遊 拝
[2009/12/22 22:31] | ブログ | コメント(0) |
*萩*
夢を見た。


あたしはまた江戸時代の吉原にいて、同じ事を繰り返す毎日を過ごしていた。
留袖新造の花里と共に姉の遣いへ出て、三味線の弦を買って帰る私たちの足元に、赤い落ち葉がからからと音を立てて風に吹かれていった。
あたしは振袖、花里は留袖、花里は突き出しも無く客を取り、あたしは年明けに突き出しが決まっている。
花里は仮にも器量良しとは言えず、愛嬌も無い。
そんな花里も、あたしの事も、分け隔てなく世話してくれた姐女郎の常盤は見世の松の位で、禿を含めて片手の指に数え切れぬほどの女郎の世話をしているお人好しだ。

『この間さァ、常盤姐さんの馴染みが浮気をしたじゃあないか。何だって姐さんは許したのかねぇ。』
花里が着物の襟をかきながら、洟を啜る。
『…さぁ、わかりゃんせん。けど、姐さんは優しいから、浮気の一ツや二ツで怒るような人ではござんせんし…』
この間、常盤姐さんの馴染みが酒の勢いに任せて留袖新造に手をつけた時、常盤姐さんは剃刀を持ち出すでもなし、責め詰る事もなし、ただ建前として、座敷の酒の席で、禿たちに客の顔に墨で落書きをさせる、といった一番軽い仕置きで済ませてしまった。

『あんた、座敷のほかに廓言葉を使うのは嫌味だねぇ。そりゃあたしに対する当てつけかい。』
『そんな事ありゃんせん。ただ、わっちは座敷の外でも廓言葉を使うよう、姐さんからもよくよく言いつけられ…』
『あァ、そうだね、これから立派な突き出しをして先は花魁と見ゆるあんただもんね。…おや、其処な道端にその姐さんの間夫がいらっさるじゃあないかい。』
花里が顎で指した先には、腰に二本の刀を差し、編み傘を目深に被った黒袴の男が、ぼんやりと煙管を燻らせながら楼閣の上を眺めていた。

『あれ、鼻緒が切れんした、お先に御帰りなんし』
あたしはそう言って、花里を先に見世に入らせようとした。
花里は通りすがり、その男の顔をまじまじと覗き込むようにして通り過ぎ、柿色の暖簾をかきわけた。
あたしは花里が見世に入るのを見届けて、男にそれとなく近寄る。
『常盤さん姐さんに、何かお託はござりんすか』
小声でそう尋ねると、男は頭を振り、萩を一枝あたしに手渡して、是を常盤に、と言った。

『姐さん、只今戻りんした。…経った今、下で、そうさまがこれを姐さんにと』
あたしが萩の枝を常盤に渡すと、鏡台へ向かって化粧を直していた常盤は、飛び上がるように立ち上がり、薬指についた紅も拭わずに障子をあけ、外へ身を乗り出した。

打掛も羽織らず木枯らしに吹かれながら、何も言わず、胸元に萩の枝を大切に抱いて、微笑んで下を向いている姐女郎は幸せそうだが、どこか悲しそうで、あたしはそっと座敷を出ようとした。
『…花菱、ちょっと待っておくんなんし。今すぐそうさまに届けて欲しいものがおざりんす。』
そう言って、常盤は引き出しを開けて紙を取り出し、細い筆ですらすらと短い詩のような事を綴り、ふっふっと息を吹きかけて墨を乾かし、結び文のように折り畳んだ。
『若衆や遣り手に見つからぬよう、上手くしなんせ。いつもながら、お手間をお頼申しますよ。』

あたしは階下へ降り、下駄を突っかけて、通り向こうの枯れた柳の下で相変わらず煙管を吹かしながら楼閣を見上げている男の前を通り過ぎるふりをして、すっ、と結び文を手渡す。
軽く会釈をし、寒さに身震いしながら廓の入り口に戻ろうとすると、ちょうど花屋が桶いっぱいに秋の花を詰めて裏へ入って行くのが見えた。
ふと振り返ると、男は文を広げて読んでいた。目深にかぶった傘のせいで表情はあまり見えないが、それでも口元は少し上がっているように見えた。

その晩、姐の座敷では、大瓶に活けられたススキや大菊が目を引いた。
ただ、その甕の淵には、見えるか見えないか、艶やかに活けられた大輪の花たちに隠れて、ひっそりと一輪の萩が柔らかい弧を描いていた。

その時、あたしは恋とはどんなものなのか、全く知らなかった。
それを知っている姐を、羨ましく思った。


現代に於いても、あたしは本当に恋すると言う事を知らない。
誰かに恋い焦がれた事も無いし、愛し愛された事も無い。

そんな事すら、夢の中でも知りえないなんて、少し寂しい気がした。
[2009/12/21 01:03] | 小説―light | コメント(2) |
◆朝の光◆
朝の光が優しくて目が覚めた。それはとても柔らかく、光の中で最もささやかに、静かに訪れる。
あたしは寝不足の目にしみる金色の光をからだに受けながら、窓の前に置かれた机に着いて、髪を切りはじめる。
二本の鋏が交互に、あたしの髪の毛を少しずつ切り落としていく。
今日は美容院に行こうかと思っていたけれど、日曜で込みそうだったからやめておいた。
目が覚めてまず、髪の毛を、切りたいと思ったのだ。
理由は至極単純で、今の髪形に飽きた事と、男の子のような髪型にしたかったからだ。
もう女々しさを前面に押し出して化粧や可愛らしい服に執着する時期も過ぎた。
そもそも、あたしには女らしい恰好など似合わなかったのだ。
細いからだ。必要以上に伸びた身長。本当は、ずっとわかっていた。あたしには長い髪もひらひらのレースも必要ないのだと。
そして、あたしはそれらを好んでいなかったということも。
今まで付き合ってきた男たちがそれを望んだから、今まであたしは女らしい恰好をして、女らしく科を作って振舞ってきただけ。
髪を切り、引き出しに詰め込んだ、無駄な装飾が多いだけで何の実用性も無い服を、次々と袋に入れていく。
今度の日曜、フリーマーケットで全て売ってしまおう。引き出しの中には、シンプルで「あたしらしい」服だけが残った。
何かを新しく始めるには相応しい朝。金色の光。
[2009/12/13 08:17] | 随筆―smoking room | コメント(0) |
◆雨◆
雨の降る日はいつも外が薄暗い。
薄暗く、霞んだ景色。他の音全てを打ち消してしまう雨音。
わたしは昨日の夜に切れてしまった六本の脳神経はどれだったか思い出そうとするのだけれど、全く思いだせない。
でも確かに、わたしの脳神経は切れた。風呂上がりに突然、ぴん、ぴん、と頭の中で六回音が鳴り、その直後に頭の中が真っ白になった。一瞬、気絶したらしい。

雨音は静かに響く。全てを洗い流して海へと還す。
雨だれは地面に浸みる。全てを育んで季節を巡らせる。
どうしてわたしは傘などを持っているのだろう。雨に打たれれば、わたしの外は洗い流され、わたしの内は育まれるかもしれないのに。
―――嘘搗き。
小声で呟いて、わたしは寝返りを打つ。
時計の針は、午後三時を回った。まだ、もう少し、眠れる。

わたしの頭の中の神経は、どの部分が切れてしまったのか、それだけを思い出したい。
静かな午後に、浅い眠りの中で、雨音にさらされて。
[2009/12/11 22:25] | 随筆―smoking room | コメント(0) |
*変化*
糸がほつれるように、細長い薄雲が千切れていくのを屋上からそっと見送った。
雲の切れ間には、茜色の空が広がっていて、それは見慣れた筈の茜色なのに、なぜか新しい景色を見ているような気持ちになる。
同じ繰り返しのような毎日でも、何一つ同じものなどありはしない。
昨日のあたし。一分前のあたし。同じようで、違っている。きっと『あたしはあたし』と想いながらも、変わり果てていくのが自然なのだろう。

緩やかに曲がりくねった坂道を下りながら、この景色ももうじき見納めだ、と想う。
部屋の中には引っ越し用のパッキンが山積みにされていて、明日の朝、業者が部屋から運び出す。
あたしは煙草に火を点けて、茜色に照らされた路地の、すっかり実も葉も落ちた柘榴を横目で見やりながら歩く。
引っ越しの準備が済んだ後、時間を持て余し、腹が空いても食器も鍋も梱包してしまった。
外に出て、この街に移り住んでから三年間、一度も入った事の無かったパスタ屋に入り、カルボナーラを注文した。
とても美味しくて吃驚した、と言いたい所だったけれど、少し油がきつすぎて、全部を食べきる事が出来なかった。
少し胃もたれのする体で、あたしは家路に着いた。おそらく、最後の帰り道。

もう二度と、ここには戻ってくる事はないだろうし、引っ越す先は随分と遠いので、友人も無く、是と言って贔屓にしている店も無いこの街にわざわざ立ち寄るようなこともしないだろう。
足元には長い影が伸びている。アスファルトの端に、死んだスズメバチが蟻に集られているのを見つける。
三年前も、こうして同じ道を通った。引っ越してきたばかりの頃は、しょっちゅう曲がる道を間違えて、遠回りをする羽目になった。
結局、今通っている道が、駅からの最短距離の帰り道。

三年前のあたしは、今のあたしとどう違うだろうか。
髪形が変わった、年齢が変わった、初めての一人暮らしに慣れた。それから、少しだけ痛い恋をした。
とんでもなく馬鹿な失敗を何度もした。酔っぱらって帰る途中、二回も途中で靴を脱いで裸足で帰った。つまり、ピンヒールを二足無くした。
街は、この三年で大きく変わった。駅前の広場が開け、多くの店舗が軒を連ねた。図書館が出来て、向かいのビルは潰れて更地になった。

三年前の写真を眺め、それから鏡に映る自分の顔を眺めてみるのだが、然程変わった所はない。
偏屈な所も、後ろ向きな所も、頑固で意固地な所も、何も変わっていない。
すぐに、逃げ出す所も。

あたしは今回、逃げ出したくて引っ越しを選んだ。
仕事も恋ももう何もかも厭になって、誰も自分を知らない場所へ、自分が何も知らない土地へ行って、新しく一からすべてを始めたかった。
生まれたての赤ちゃんと同じ。ひとつひとつ、憶えて、学んで、生きていく。
だけど今のあたしは、それを「逃げ出す事」と同意義に見ている。早く、一刻も早く、窒息してしまう前に、大好きだったこの街を離れたい。
この街はそう悪くない。寧ろ、あたしはこの街を気に入っている。
気に食わないのは、嫌いなのは、あたしの中に在るドロドロとした抑鬱感や、嫉妬や倦怠、その他色々、全てあたしのせいだ。

夕日も落ちて、空はまだ僅かに光の明るさを残して、夜を迎えるこの街を包み込む。
あたしは、マンションの部屋の鍵を開けながら、何もかもが見納めで仕納めだと思った。
そして、何も変わっていないと思い込んでいる自分が、その実一番変わり果てているのではないかと、ほんの少しだけ思った。
[2009/12/10 04:44] | 小説―light | コメント(0) |
●書きたい●
今日もまた、眠れない夜が終わった。
と、言っても、敢えて眠らなかっただけだ。カフェイン錠と睡眠薬を一緒に飲むと、大体三時間くらいで目が覚める。
最近、眠り過ぎなので、苦肉の策としてこういう手段を取っているわけだけれど、本当はとても体に悪いんだろうな、と思う。

眠りたくて眠っているわけじゃない。
眠っている間は、夢うつつに、目覚めたらあれをしようこれをしようと色々考えているのだが、いざ瞼を上げて起き上がれば、何もする気が起きない。
そして、もう一度ふとんに横になり、目を閉じてしまえばまた眠りの中に引き込まれていく。
ただ眠るだけならいい。けれど、睡眠過多による起き抜けのひどい頭痛はいただけない。
頭痛がつらくて、頭痛薬を飲む。しばらくじっとしている。すると、何かの方程式のようにふつふつと眠気がこみ上げてきて、あたしは眠りに落ちてしまうのだ。

ここ数ヶ月、ずっとそんな状態が続いている。
先々月からは、それがさらにもっとひどくなった。
眠りたいのに眠れずに、起きていたいのに睡魔が襲ってくるこの状況。
何とか打破したい、と思いながら、カフェインと薬で胃腸をさんざんに荒らして日常生活をかろうじてこなしているのだけれど、このままでは体がおかしくなるな、と感じている。
今だって、数週間続けて飲み続けたカフェインのせいで、軽い吐き気がしているし、口角炎もひどくなった。
ついでに言えば、あたしの体にはカフェインが合わないらしく、飲むとひどい耳鳴りと手足のしびれ、動悸などが現れる。
それでも、何か覚醒するものを体に入れないと、寝過ぎで人間失格になってしまう…。合法なのは、カフェインとお医者で処方されるリタリンとエフェドリンだけだ。

いっそお医者にリタリンを処方してもらいたいのだが、リタリンはナルコレプシー患者にしか出せないと法律で決まっているらしい。
結構前には鬱病でも手軽に手に入れられたのにな。
エフェドリンも、ちょっと前まで漢方薬局のウェブサイトで簡単に買えたのに、今じゃ本人が店頭に行かなきゃ売ってくれないときた。

眠りたい時に眠れない。
起きていなければならない時に眠ってしまう。
この悪循環は、あたしの書く物にも影響してしまう。
朝起きて、きちんと外に出て、色々な事柄を五感と第六感で感じて、それをピースに、文章として組み立てて行くのが本来のあたしのやり方だ。
いつまでこんな「つらい苦しい」ばっかりの日記をつけなければならないのか。
じゃあ書かなきゃいいじゃん、という声はごもっともだけれど、あたしにとって書かないという事は、イコール次第に書けなくなるんじゃないか、という気持ちになってしまうので怖い。

脈打っている生温かい文章。
切れるような冷たさと鋭さの情景。
柔らかく仄かに薫るような文章。
あたしと世界の全てが息づいている情景。

書きたい。

[2009/12/08 07:14] | ブログ | コメント(0) |
●楽しい明日の妄想●
前ネタ、どえらい暗い話だなぁ。こりゃ皆さんにご心配かけてしまうわ。

と、言うことで、明けたら晴れて師走の朝日。楽しい事を考えましょう。
薬飲んでおやすみなさい!ばたんきゅう。。。

⇒目が覚めて。
睡眠薬の切れも良く、すっきりとした頭で今日一日、何をしようか考えながら、新しい歯ブラシで歯を磨く。
シャワーを浴びる。ニームの入った黄緑色の石鹸でからだをごしごし洗って、お湯を止めて、マットの上でからだにいい匂いのするオイルを塗って、ふかふかのバスタオルで水気を拭く。
髪を乾かし、さっぱりした所で、夫が作っておいてくれたフレンチトーストを食べながら新聞に目を通す。
…あ、新聞取ってないや。

音楽を聴きながらたばこを吸って、たらたらと部屋着を脱いで、紅色ベロアのワンピースに着替え、化粧する。
十日ぶりの化粧!
風邪をひいたせいで、右側の口の端が口角炎になっているけれど、それでも化粧したあたしは別嬪さん。
さてさてお次はどうしましょう。思いつかない、なんて言わないでね。今まで書いた事が台無し。
そうだ、何処かにお出かけしましょう。
財布の中には十数円しか入っていないけれど、幸い銀行には数万円あるし、日帰りだったらどこでも行けちゃう。
茶色の鞄に色々詰め込んで、からし色のコートを羽織って、猫に行ってきますのチュウして、いざ出発!

…何処に?まだ決めていない、一体何処にいくんだあたし。

一瞬でも迷いが出ると、思考はとたんに鬱モード。
考えるな!本能で!本能で…今日は、上野辺りをぶらぶらしよう。
でも動物園にパンダはいないし、チベット展は先月行った。いいや、チベット展もう一回!
通勤ラッシュの過ぎたスカスカ電車にゆったり座って、イヤフォンを耳に押し込んで、一人楽しく小旅行。

入り口で引いたおみくじのような「護り神」はペルデンラモ。
ナイラートミヤー像、拝む。ターラー像、拝む。千手観音像、拝む。
せめてあたしだけ幸せでありますようにと拝んで拝んで拝み倒して、それから観て回って、三時間くらい…。
最終地点の土産物コーナーで、チベット物を大人買い。ターラーの銀ペンダント、チベットのエプロン。水牛の角でできたドクロと、ターコイズのビーズ、ツァツァ。
前回来た時に、欲しかったけど同伴の旦那の手前、買えなかったから。
……お金、足りるかなぁ。
なぜかどさくさにまぎれて店を構える中華物産店には目もくれない。フリーチベット!
ここで、外に出たら再入場は不可。おつかれさまあたし。

お次は恵比寿まで足をのばして、ガーデンシネマで『空気人形』でも観よう。
面倒くさいとか疲れたとか、そんなのナシで、歩き回って、疲れ果てて夢も見ずに眠りたいよ。
……あ、また暗い方向へ勝手に舵が逸れた。

*************************************************************************************************

考えるの疲れたから、妄想はここまでにしましょう。

だいたいそんな行動力無いって。第一、外へ出て一人で楽しい事なんて何一つありゃしない。
一人で外へ出るなんて、ろくな事がないにきまってる。
一人で楽しむなら、家で無心に刺繍でも刺していたほうが楽。
もしくは、引っ越しの準備がてら要らないものを捨てていたほうが有意義だ。
でも、いい加減、外には出ないと……。

でも行く所がない。
(あー、また暗い終わり方しちゃった。)
[2009/12/01 02:55] | ブログ | コメント(0) |
●後遺症…●
インフルエンザ?かもしれなかった。
でも病院に行かなかった(行けなかった)ので、真偽のほどは不明。
ここ一週間ばかり、高熱と悪夢にうなされ、全身痛いやらあせもがかゆいやらで地獄のような日々だった。

苦しい、ってこういう事なんだろうか。
違うな。
苦しいのは、インフルエンザだろうが季節性感冒症だろうが同じ、気を病むこと。
体の調子が少しくらい悪くたって、痛いの痒いのは我慢できる。でも、気持ちが塞ぐのはどうしようもない。
病は、気から。同じく、気は、病から。

熱を出しているときは、今日が何日で、何曜日で、今が何時で、外には太陽が出ているのか、暑いのか寒いのか、自分がどこにいるのか、すっかりわからなくなってしまった。
夢の中では、いつも同じ、ごく自然に家族みんなで暮らしてた。昔の家で。あたしは十代で。
だから、目が覚めた時、集合住宅の一室に自分が何故いるのかわからなくなる。
玄関のドアをあけてふらふらと飛び出す。そこには居間へと続く階段などなく、冷たい鉄柵で仕切られた、狭い通路と曇った夜空があって、そこでわたしはようやく自分の現在に辿り着くのだ。

体の症状が治まった今も、その余韻は続いている。
ふと目覚めたら、昨日とは違う洗濯物が干されている。それは夫がしてくれた事なのだろうけれど、自分が夢うつつにしたのかもしれない、と恐ろしくなる。
たとえば、熱が出ているとき、夢の中で、あまりにもお腹がすいて、缶詰を食べた。
目が覚めたら、ちゃんと缶詰の空き缶がテーブルの上に転がっていた。
怖い。

始終、誰かか何かに追われている夢を観ていた。
今も、その感覚から抜け出せない。
玄関のブザーが鳴ると、ああわたしはまた警察に捕まるんだな、と心底怯えて布団に潜り込み、耳を塞ぐ。
携帯電話の着信音さえ怖い。廊下を歩く人の足音にも、他の住民が個々の部屋へ入るときに扉を閉める音にもびくびくしてしまう。

一生このまんまだったらどうしよう。
それって苦しいなぁ…。
と、いうか、一生続くんだったら、今ここであたしはあたしを止めたい。
重症だ。

熱で朦朧としていた時、不覚にも親に電話をかけてしまった。
お母さんは、あたしに何もしてやれなかった、って会う度いつも言うから、そういう心配かけるような事はしたくなかったのになぁ。
さっさと親元から独り立ちして、結婚して、こっちはこっちで上手くやってますよーそっちも頑張ってねー的な、ドライな関係を心がけていたのだが…。。。
電話して、『ちょっと熱があって、旦那仕事だし、心細いんで電話してみた。まぁ大したことないんだけど』って言ったら、えらく心配されて。
『水飲んでる?食欲は?ああどうしよう???』といった風に。
『●●さん(←母の友人・東京在住)に来てもらおうかしら?』などと挙動不審な事を言い始めるので、あと何時間かすれば夫が帰ってくるからと丁重にお断りした。
電話、するんじゃなかった。

・・・・・・2日後に、大量の林檎と桃の缶詰が届いた。
お母さんの中で、あたしは今も幼い子どものまんまなんだろーか…。

ふむ、こういう事を書いている時点で、幼いな。子どもだな。
だけど誰かこの苦しみから逃れる術を知っていたら、どうか教えてくださいませ。
とにかく、全てが怖くて仕方ない。自分自身が信じられない。
ぶっ壊れる前に、精神科へ行こう…。
[2009/12/01 01:32] | ブログ | コメント(0) |
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*My Blue Heaven*


私の記憶の中から、思い出せる限りの事を『小説・文学』カテゴリに。   私の現在を、『ブログ』カテゴリに。

プロフィール

遊

Author:遊
Name:百瀬 遊(Yu Momose)
Birthday:01/28
Blood type: B
Sex:F

●がタイトルにつく場合ブログ、
*がタイトルにつく場合が小説です。

◆初期小説は、書き下ろしのノンフィクションを載せています。
※カテゴリ別に読んで頂ければ、多少なりわかりやすく表示されると思います。
※表記の多い、自傷、ドラッグ、売春はすでに卒業しています。
ドラッグと売春は犯罪ですので、(今更ですが)やっちゃダメな事です。
自傷は犯罪じゃないみたいですが、周りの人が痛いのであまりお勧めできません。
◆09年8月以降、フィクションを増やしていく予定です。
ノンフィクションの場合は題名に表記します。

※著作権・肖像権の侵害、あるいは転載などは禁止とさせていただきますので、よろしくお願いします。

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