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*空を仰ぎ、大地を抱く*
それはとても長く果てしなく続く砂浜に思えた。
少し湿った砂の上をゆっくりと歩きながら、わたしは波打ち際に近づく。
海は凪いでいて、打ち寄せる波は、ほんのささやかな泡を残し、水面には瑠璃色の漣が細かく、規則正しく動いていた。

砂の上ににあおむけになって、空を見上げる。
吸い込まれそうな空の青は、勿忘草のようにほんの少し紫がかった水色だ。夕暮れが、近い。
あたしは横たえた体の感覚全てを使って、地球が動いているしるしを捉えようとする。

眼を閉じれば、体は重く砂に沈み、自分の鼓動がはっきりと聞こえる。
砂に沈んだ体に、ゆっくりとした一定のリズムが響いてきて、わたしは、ああこれが地球の動いているしるしなのかな、と想った。

静かな波の音が体中にしみわたって、わたしの足元は少しずつ海水に浸って行く。頭の先まで水に浸り、洗い流されて、わたしは目をあける。
からだは、元の砂浜に横たわったまま。波も、足元から少し離れた所で、相変わらず規則正しく砂を黒く濡らしていた。
ゆめを観たのだ。わたしはそんな体験を何の疑いも無く受け入れて、上半身を起こし、まだ少し眩しい夕日を見つめた。

光は、生きていた。意思のあるものだけが、生きているとは限らない。
光は、きちんと生きて、何万光年もの果てから地球を照らしている。
地球は絶えず動き続けて、この砂浜に波を送り、空は果てしなくこの世界を包み込む。

あたしは涼やかな風に吹かれながら、今この瞬間に全てのヒトが滅亡すればいいのに、と想った。
それは破壊衝動からくるものではなく、厭世的になっていたわけでもなかった。
世界はただ、ひたすら幸福だったから、あたしは世界の滅亡を願った。
これ以上ヒトに穢される前のなら、今の景色を、限々のところで美しさが残るままで亡くしてあげたかった。

『今、滅びたい、って思う。』
あたしは、隣に横たわっている彼に向ってそう言った。
『生きていても仕方がない、とかそういうんじゃないの、ヒトは存在するだけで罪だなぁって…。』
だから、これ以上海が濁る前に、空が曇る前に、緑が失われる前に、きちんと在るべき姿に還してあげたいって思う。
地球が滅びるのが不可能ならば、せめて人間だけでも一瞬で蒸発させてしまいたい。
それに、みんな一緒にいなくなるのなら、誰も悲しまないでしょう?

彼は言う。
『ヒトが滅んだら生態系もめちゃくちゃになるんじゃない?そうしたら、ヒト以外にも絶滅する種は沢山あるよ。』
『……でも、結局最後には何かしら残るよ。バクテリアとか、そういうのが。本来の地球にいたモノだけが残ればそれでいいんじゃない。』

だからわたしは、きわめてポジティヴな考えで、人間の滅亡を願うのだ。
美しすぎる、壮大すぎる景色を目の当たりにして。

あたしはまた砂浜に横たわって、自分の事について考えてみた。
あたしは、何をするために生まれてきたのか、そんな原点から、いまの自分の存在意義まで。
だけど結局たどり着くのは、滅びたい、滅ぼしたい、という想いだけだ。
それが、人間以外の全てのモノにとって、幸いであることは間違いないからだ。

『あたしはたぶん、壊すために生まれてきた。』
そう呟くと、彼は、そんな寂しい事を言うなよ、と笑った。
『寂しい事じゃなくて、正論なの。自分の中の欲望や葛藤や、そういうものを何もかも削ぎ落としたら、残ったのはその感情だけなの。』
滅びたい。滅ぼしたい。壊したい。壊れたい。自分のためではなく、誰かのためでもなく。

波打ち際のうたかたは白く弾んでは消え、海に還る。
川を下り、波に洗われた流木は、滑らかな肌を無防備に晒して、貝の欠片を纏って灰色の砂を彩る。
空は次第に朱鷺色に染まりゆき、東の空には青白く輝く三日月と、泣きぼくろのような金星が瞬いている。

美しいものは次第に奪われて失われて、傷つけられて食い荒らされる。

少し離れた海岸線沿いの緑は伐採されて、大きなクレーンがコンクリートの味気もそっけもない建物を造り続けている。
何年後かのこの海岸線や砂浜を想うと、あたしは、今この時に全て滅せよ、と想わずにはいられない。

『おれたちだって生きているんだからさ、それを楽しむ事が存在意義なんじゃね?』
彼はそう言って煙草に火を点ける。
『ユウも自分が生きている事を楽しんだらいいじゃん。そうでなきゃ、生まれた意味なんてねぇだろ?』

あたしは黙って、砂を握りしめた。
楽しんでいるよ。嫌味じゃなく、心底この世界を楽しんでいるんだ。
愛しているよ。焼糞じゃなく、心底この景色を愛しているんだ。

だからヒトが滅ぶなら、あたしは生まれて初めて心から幸せだって思える。満足だって言える。

あたしがそう言うと、彼は、何言ってんだか全然わかんねぇよ、と言って笑った。

橙色の太陽は、薄紅の尾を引いて、水平線の上に在る雲の中へ落ちて行った。
壊されかけた地球にいるはずなのに、あたしにはその景色の何もかもが、輝いて見えた。

茜色に染まった頬に、自分でも感情の判別ができない涙がひとすじ流れた。
あたしはうつ伏せになって地球を抱きしめて、真摯な気持ちで、何度も何度も滅亡を願った。
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[2009/11/24 05:12] | 小説―midium | コメント(0) |
*funeral side-B*
『funeral』 : side-A
daydream,eveningsky(柳氏)

**********************************************************************************

寂しい と 苦しい の 隙間で
わたしが望むことはただ一つ
わたしのための 煌びやかな葬列
宵闇の果てから 
鈴の音で静寂を揺らして 
わたしを迎えに来る葬列

「もう行くわ」
あなたへ 心から償いの言葉
あなたへ せめてもの別れの言葉

踏切に点滅し始めた赤いランプが
終焉をわたしに告げていた
甲高い警音が わたしに進めと促した

あなたの手は届かない 決して届く事は無い
どこまでも いつだって わたしなひとりきりだから
どんなにこの指に あなたの温かさを感じても
わたしの冷たい手は それすら容易く振りほどいた

しゃらり しゃらりと 装飾を鳴らして
わたしを乗せて 冥府の底へと降りて行く
嵐の通り過ぎるような音の中 列車は
わたしを乗せて 冥府の底へと降りていく

ひとり立ち尽くす あなたを残して

あたしの声は 誰にも届かない
ささやいても 叫んでも 血を吐くほどに苦しんでいても
一番愛しい あなたでさえも 聴きとれない

どこかで あなたの声が聞こえたような気がした
わたしに 何かを伝えようとしたかったその叫びは
孤独の内に ふさいだ耳には 届かない

もう愛さなくていいよ わたしを 赦さなくてもいいよ

痩せた腕をかざして見上げた夜空は
どこまでも灰色に濁って 星の一つも見えない

わたしは あらゆるすべを 使い果たした
あなたを残して 葬列の柩に
これ以上 全てに耐えられそうにないから
あなたの声に耳をふさいだ わがままなわたしを

どうか見届けて。
[2009/11/24 01:59] | 短詩 | コメント(2) |
◆あたしが手帳を持たない理由◆
文庫本サイズの銀色の手帳には、この先の未来の予定がどんどん溜まっていく。
それは、義務や、約束や、夢や希望がつめこまれていて、とにかく先の事など全く分からない人生を歩む中で、明日、或いは一ヶ月程度先の指針となっている。

あたしは手帳を持ち歩かない。
必要最低限の予定は全てカレンダーにかきこんで、あとは簡単なメモで済ませる。
明日の事なんてどうなるかわからない。
ましてや、一ヶ月も先のことなんてあたしには想像もつかないし、良い意味でも悪い意味でも想像したくない。
何事も、突然やってくる。晴天の霹靂、天気雨。
そんな生活を楽しむ事。ある日突然思い立って、ふらりと電車に乗って海を見に行ったり、理由も無く新宿の雑踏に佇んで、道行く人々を眺めていたりする。
それはそれで、有意義だ。

手帳の空欄がどんどん埋まって行くのは恐ろしい。
それはまるで、白い紙を埋め尽くしていく小さな文字の羅列に、自分の人生や生活を束縛されていくようで、かくあるべし、と言われているようで、息苦しくなる。
自分でたてた予定、他人に申しつけられた予定、それらのすべてをひとくくりにしたこの冊子は、おおげさな言い方をすれば、まるで黙示録のようだ。
だから、あたしは手帳を持たない。

人間は、束縛されてこそ生きられるもの。けれど、その縛るものの中で息苦しさを覚えた時には、少しはそれを減らしていきたいと思う。
あたしの心は、できるだけ縛られたくない。だから、あたしは手帳を持たない。

[2009/11/23 09:30] | 随筆―smoking room | コメント(0) |
*愛する人に伝えたい事*
今朝は、奇妙な夢を見てしまいました。
あたしは驚いて飛び起きて、そして朝の柔らかい光の中で、それが夢だった事に改めて気付いたのです。
何の夢だったかは、もうおぼろげにしか憶えていません。
けれどそれはとても暖かくて優しくて、冷たくて残酷で、まるで暗い淵に沈んでいるような、胎内を漂っているような感覚でした。

眠っているうちに、ふとんからはみ出して、冷え切ってしまった肩をさすりながら、起き上がり、改めて部屋の中を見渡しました。
カーテンの隙間から見える窓の外には、昨夜から干してある洗濯物がはたはたと揺れていました。
もうすっかり秋は過ぎ去って、冬の青く高い空が広がっていました。

あたしが目覚めた今この時、あなたは何をしているでしょうか。
眠っているでしょうか。それとも、もうすでに服を着替えて歯を磨いている頃でしょうか。
あなたの事が知りたくても、こう遠く離れていては、何も知るすべがありません。
遠く、と言っても、たかだか車で三十分の距離、それなのにあなたがこうしてあたしの部屋にいないというだけで、それはひどく、とても、遠く離れているような気がします。

おはよう、と小声で呟いても、返事はありません。
静まり返った部屋の外を、車の通り抜けていく音が空しく響いていきました。
ベランダでは雀が甲高い声で鳴いていて、あたしは聴き慣れたその声を少し疎ましく思い、雀の声があなたの鼾か欠伸か、それともあたしを起こす声か、そのどれかであったらいいな、と思ったのです。

あたしが今朝、あなたに伝えたいことはほんの少し、あなたにとってはどうでもいいことなのかもしれませんが、あたしにとっては大切なことです。

明け方に、あなたの夢を見ました。目覚めた時の、卵の黄身のような薄い光がこの部屋を綺麗に映しました。
空はとても青くて、目にしみるほど青くて、あたしを現実の世界に引き戻しました。
あたしはあなたの寝顔が見たいと思いました。朝一番にあなたの声が聞きたいと思いました。

ほんの少しでも、離れているのは厭だと思いました。
ずっとそばにいて、何気ない仕草を眺めていたいと思いました。
何気ない日常の一齣にあなたがいないだけで、鮮やかな景色は全て色褪せて見えるのです。
何気ない日常の一齣にあなたがそばにいるだけで、何もかも輝きを増して見えるのです。
[2009/11/22 14:57] | 小説―light | コメント(0) |
*アンプラグド*
世界は全てこの手の中に在る。
そう思っていた数年前の僕を、紙屑のようにくしゃくしゃに丸めて放り出してしまいたい。
部屋の隅には、埃を薄くかぶったままのギターケースと小さなアンプ。
ナイロン製のギターケースは今や、猫の爪とぎ用と化し、中に納められているギターは数カ月に一度取りだされて、二時間程度でしまわれる。

「音が違う。三弦をもう半音上げて。」
絶対音感を持つ彼女が、ベッドの上から身を乗り出して言う。
僕は違和感を覚えなかったし、KORGのチューナーもDを差している。
「違わないよ。チューナーだって合ってる。」
「違う。半音でなかったら、半半音。聴いてて気持ち悪い。」
そう言って彼女はベッドの上に戻り、枕に伏せていた本の続きを読み始めた。

日曜の昼下がり。天気はのどかな秋晴れ。
久々に日曜休みなんだし、どこかに遊びに行こうよ、と言う彼女に、僕は、今日はやめておこう、と返した。
晴天の日曜に表に出るなんて、ただ人混みに疲れるだけだ。
僕の仕事はシフト制で、たいてい休みは平日になる。月に一度あるかないかの日曜日の休日。
彼女と休みが合うのは日曜くらいで、他はほぼ毎日同じ時間に家を出て、同じ時間に帰ってくる。
つまんないの、と彼女は拗ねて、朝からずっとベッドの上で読書をしている。

僕の抱えたギターには、彼女が絵を描いてくれた。紫と抹茶色のアクリル絵の具で、見事な鉄線の唐草模様と揚羽蝶を。
僕は絵が描けないから、彼女が細い筆で下書きも無く、すらすらとギターに絵付けして行く様を見て素直に感心した。
それも数年前の事。世界が全てこの手の中に在ると思っていた頃の話だ。

あの頃、同じライヴハウスで対バンしたバンドは、なぜか今テレビの音楽番組に出演したりしている。
自分の持っていたバンドのほうが、将来有望と言われていたにも関わらず、僕は今、毎日パスタの茹麺器のタイマーを気にしながらフライパンを振るう毎日だ。

「ねぇ。」
「何?」
「やっぱり、あんた音楽やった方がいいよ。もう一度音楽やりなよ。それが一番合ってる気がする。」
彼女は僕がギターを出すたびにそう言うけれど、自分の才能の限界はもうわかっている。
「…そのうち、まぁ、追々考えるよ。」
僕はそうはぐらかして、フットスイッチを切り替える。

数年前、バンドを一緒にやっていたドラムの島村は、何に取り憑かれたのか、突然役者になるなどと言い出して、通っていた大学を辞めて胡散臭い専門学校に行ってしまった。
スリーピースバンドだったから、後に残ったベースのコユキと僕は自然と解散する方向へ進んだ。
島村以外のドラムがこのバンドに適応できるか、という問いに、否、という答えしか無かったからだ。
コユキはその後他のバンドに加入し、深夜帯の番組に出る程度には登って行ったが、ここ二、三年は音沙汰もない。
島村に関しては、行方不明だ。

「お腹すいた。何か作ってくれる。」
ベッドの上の彼女が、ギターコードやプラグをしまい始めた僕に向かって呟く。
彼女の長い髪がかかった価値ある耳は、出会った頃も今も、ピアスで埋め尽くされている。
「わかった。ペペロンチーノでいい?」
僕がそう問うと、彼女は、わぁい、と言って笑った。

ベランダで、風に舞い上がった枯葉が、からからと乾いた音を立てていた。
僕がたどり着いた世界の果ては、とても地味で、ありふれていて、アンプを通さないギターの音のように弱くて儚い、だけど平穏で優しいにおいのする日々だった。
[2009/11/18 03:36] | 小説―light | コメント(0) |
◆退屈論◆
朝に目覚めて、何もすることがない事に気付いた。
いつも昼に目覚めても時間を持て余すというのに、こんなに早く目覚めて、いったい何をすればいいと言うのだろうか。
しかも、外は雨で、部屋の中は肌寒い。
体を温めるのに、シャワーで済ませるのも面倒な季節になってきた。

たばこを吸いながら、何をしてこの時間を凌ごうかと考える。
もう一度ふとんに潜り込んで眠りにつくには、神経は冴えすぎていて、それもあきらめざるを得ない。
ああ、どうしよう、どうしよう。一大事だ。
…と、慌てふためく状況でもないのに、あたしは何かにせかされているような気がして落ち着かない。
気のせいだ、きっと気のせいだ。落ち着いて良く考えれば、する事が何もないなんて十分に満たされている証じゃないか。
目覚めてから眠るまでを、ただひたすら己の命を繋ぐために休む間もなく動き続ける人々に比べれば、随分と幸せな暮らしをしているではないか。

テレビを点けてぼんやり眺めながら考える。
時間の無駄だ、とわかっていながらも、あたしには他にする事がない。
溜まった洗濯物も、雨だから洗えない。
ベランダの鉢物の整理も、出来そうにない。
掃除をしようにも、ネコがまだ眠っているので掃除機の音で脅かすのは可哀そうだ。
シンクにごみは溜まっていないし、さっき軽く食事を摂ってしまったのでヨガをするにももう少し時間を置かなければ。

退屈である。どうしようもなく、退屈だ。
そういえば、今朝はとても冷えた。身震いをして、目が覚めた。
秋が終わりそうになってもタオルケットと肌掛けで眠れるなら、きっと路上生活したって大丈夫だね、と彼は笑った。
路上生活で凍死の心配は要らないよ。あたしたちはまだ若いし、ここはニューヨークやモスクワじゃない。
路上生活で一番恐ろしいのは、眠っている間に誰かに数少ない持物を奪われる事だ。
そう、退屈であるという事。それはやはり、あたしが平和な環境で満たされている証なのだろう。

それにしても退屈で仕方ない。
それを不満と感じることは、あたしが如何に半生を駆け抜けて、欲深くずる賢く立ち回ってきたかを象徴するようで少し情けなくもある。
ただ時間が流れていく事を、つらいと感じるのはきっと、あたしがまだ何かを求めて、求めてやまないという確かな事実を裏付けているのだろう。
お財布の中に、まだお金は少しある。求めているのは物質的なものではない。精神的なもの。
そういうものを求めてやまないという事は、やはりあたしが幸せで満たされているという事なのだろう。客観的な立場で考えれば。
でも本人がそれを苦痛で不幸だと考えるのは、傲慢だろうか、罪だろうか。
退屈な事がつらいんじゃない、退屈である現状がつらいと感じている自分の心の狭さと強欲さが不幸だと思っている事は果たして…。

こんな事で思い悩む自分はどこか壊れているのだと思う。
そうでなければひどくひねくれていて、何をしていてもどんな名誉に与っても、他人の芝生が青く見え、他人の仕事が妬ましく思えるのだろう。

これ以上考えていても仕方がないから、朝から睡眠薬を飲んでまた眠る事にした。
あたしの中の退屈は眠りの中で夢というアトラクションになって、少しの間だけあたしを慰める。
目覚めれば、また針の筵のような退屈と、自分で選んだのに一日を無駄にしたことへの後悔が待っている。

極楽、極楽。
退屈な日に、こうも嘆けるあたしは、とっても幸せ。
眠る場所にも衣類にも、食べるものにも薬にも困っていない。
痛い事も寒い事も、奪われる事も殺されることも無く、平穏な日々を過ごせる有難さ。
なんて満ち足りた生活。

どこが。なにが。
あたしはこんな生活が欲しかったんじゃない。
[2009/11/17 10:29] | 随筆―smoking room | コメント(0) |
*story ;side-B *
daydream,eveningsky(柳氏)
作品「story」に寄せて
**********************************************************************************


差し延べられた指先に
触れることさえ躊躇われた

あなたは
夢に、愛に、生命の喜びに在り
あたしは
小さな世界の中で膝を抱えたまま

あなたがあたしに見せる世界は
眩しすぎて何も見えない
見た事の無い景色を見に行こうと
あなたはあたしの手を取って

飛び立つ

物語は始まる

終焉を望んだこの手のひらに力強い温かさを与え
滅亡を願ったこの二つの目に新しい世界の広がりを見せて

あなたの声が届いた時
あたしは自分が微笑んでいた事に気付いた

白く
世界は霞んだまま

そして
物語が始まる
[2009/11/17 01:13] | 短詩 | コメント(2) |
*すいか*
小学生の頃、皆さんの将来の夢は何ですか、と先生は言った。
サッカー選手だとか看護婦さんだとかいう答えが飛び交う中で、あたしだけ何も言えなかった。
教室でみんなが笑う時、あたしはひとりだけ笑えなかった。

ここでは、大人の定義で言う、「子供にとって有意義な事」を押し付けられている事に気づいていた。

好きな食べ物は何ですか、と先生は言った。
大半の子が、西瓜、と言った。

あたしはあのざらざらとして味気の無い、水っぽくて種ばかりの果物が好きではなかったけれど、自分の好きな食べ物は梅干しですなんて間の抜けた答えを言えるはずも無く、他に何かを思いつくはずも無く、右へ倣えで西瓜と呟いた。

それじゃ、夏休み前のレクリエーションで、西瓜割りをして楽しみましょう。
校庭に連れ出され、グループ分けをされて並ばされ、先頭から順々に、各々小さくて汗ばんだ手のひらに木製のバットを握り目隠しをして、同級生の声援を頼りに、ビニールシートに載せられた西瓜に向かう。

幼い力を振り絞って、渾身の力で地面を叩きつける木製のバット。湧き上がる歓声。笑い声。
隣の列では二人目が早くも目隠し越しに西瓜の位置を捉えて、丸々とした青い西瓜に無垢な、穢れのない、それでもどこか殺意を含んだ一撃を与える。

ぐしゃ、という音がして、ビニールシートに赤い果肉と種が飛び散って、分厚い皮をあっけなく割られた西瓜は無残に潰れた。

食べ物を、粗末にしてはいけませんからね。
そう言って、先生が潰された西瓜の残った部分をさくさくと切り分けて盆に盛って行く。
みんなが切り分けられた西瓜に我先にと手を伸べる中、あたしだけ一人でビニールシートの傍らに佇んでいた。
校庭の砂に染み込んだ果汁は黒い痕を残し、ビニールシートに残された小さな欠片には、蟻や蠅が群がり始めていた。

まるで人間の頭を潰したみたいだね。
あたしがそう言うと、先生は一瞬こわばった表情を浮かべ、その後作り笑いを浮かべながら、そんな事を言っては駄目よ、と、あたしを諭した。

だからね、正直な事は、何一つ言えやしない。
子供だからって、同じ法則で動くと舐めてかかるなよと言いたい。
とても賢い子供だとよく言われるけれど、本当に賢いのは、西瓜割りに興じ、西瓜に群がって喜ぶ子供たちだ。

あたしは賢くなんかない。
本当に賢ければ、もっと上手に立ち回って、大人の喜ぶ子供像を、無意識のうちに演じる事が出来るだろう。
[2009/11/17 00:25] | 小説―light | コメント(0) |
*いづれ、象を撃つ時*
あたしは吉原の外れにある見世の女郎だった。
外れと言っても河岸ではなくて、女郎が番付にも載る列記とした見世だ。

道中、玖珠玉に燻された打掛を替える間も無く、下からお呼びが掛る。
あたしは、あいあい、と応えて玉虫色の紅を引き、ほつれた鬢の毛を唾で撫でつけてから、煙管盆を引き寄せて新造を下に遣る。
座敷に入ってきたのは呉服屋の若旦那で、伊達を気取った絹の羽織に腕組みし、何時もの様に脂下がった顔であたしを見下ろす。

杯を片手に、時に、あれはどうした、と暗に訊かれて、あたしは、さぁ、わっちは廓の外の事は何ンも知りゃんせん、とそっぽを向いて煙を吐く。
この若旦那が通い詰めていたあたしの姐女郎は肺を患ったが、店の松の位、懇意の大名貸の引き立てもあって、身請けを前提に伊豆国で療養し、時々は文も届く。

姐女郎が大門を出てから三日も経たぬ内にあたしに鞍替えしたこの男は、あたしの事に惚れたわけじゃない。位の高い女郎が好きなだけだ。
馬鹿馬鹿しい。江戸の外れの田圃の中に、酷い腐臭のするお歯黒溝に囲まれて、浮島のように栄えた傾城の花に入れ込んで何が楽しかろう。

そんなに釣れない態度を取らないでおくれ、今日はお前の為に特別な品を誂えてきたのだから、と若旦那は言い、廊下に置いた下男を呼びつける。
下男が座敷に運び入れた重そうな葛籠の中には、見慣れない鉄の筒が三本入っていて、内一本には何やら象嵌の装飾が施された取っ手のような物が付いていた。

はて、これは何でありんしょ、と言うと、若旦那はにやにやと笑って、南蛮渡来の鉄砲さ、と自慢げに吹く。
それも、只の鉄砲じゃあない、かの大物、象とやらを撃つ為の特別製だ、と言いながら、若旦那は胡坐の上でがりがりと音を立てながら鉄の棒を組み立てていった。

出来上がったのは六尺ほどもある大銃だった。
これにだな、火薬と弾を仕込んで、こう、棒っきれで押し込んでだな、撃つわけさ、象とやらを。
若旦那はそう言って、大銃をあたしに向けて構えて見せた。
あれ危ない、止めておくんなまし、とあたしが両手を突き出すようにして遮ると、若旦那は卑しい味噌歯を丸出しにして大笑いした。
冗談だ、冗談。

然し、主さまは斯様な品を、何故わっちに、と言うと、若旦那は、なぁに、お前は今を盛りの花魁とは言えど、所詮は廓の女、何れ肺病瘡病で鳥屋に就くにも死ぬるにも苦しかろ、自害せんと匕首白鞘使うても、しくじって死に切れなければ尚苦しかろ。
お前が何れその様になった時、是を用いて廓も吉原も全て吹き飛ばして仕舞え。
あたしはそんな事正気の沙汰じゃない、と思ったけれど、黙って葛籠を納めた。

宴も酣、おしげりなんし、の声が聞こえ始める頃。
突然、開け放した障子を軋ませて強い風が吹き込んだ。
ふと顔を上げれば、そこに酔い潰れた筈の若旦那の姿は無く、葛籠を納めた場所を見遣ると、葛籠などどこにも無く、表から舞い込んだ桜の花弁に埋もれるようにして何かが光っていた。

あれはなんだろう。なんだっけ。
そうだ、携帯電話。携帯電話のLEDだ。
あたしは手を伸ばして枕元の携帯電話を取り、アラームを切った。

カーテンを開けると、外はまだ薄暗い。
吉原にいた頃、夜明けとともに見えていた朝日は、今、建物に遮られて僅かな光だけをこの小部屋に届けている。
後朝の別れも無し。居続けの客を起こす事も、皆で風呂に入る事も無し。
ひとりきりで目覚め、話し相手も無く服を着替えて電車に乗り、会社に向かう日々。

今と昔、一体どちらが寂しいのだろう。一体どちらが苦しいのだろう。
あたしはどちらの世界を、象撃ち銃で木っ端微塵にしたいのだろう。
[2009/11/16 07:26] | 小説―light | コメント(0) |
*柘榴*
柘榴
価値観は
薄れて変わりゆくもの
なのに愛情の結晶は赤子
あたしの大嫌いなもの
あたかも
償う如く生かして。

硬い皮を
内側から裂く柘榴の種は
酸くも甘くもなく紅いだけで
眺める以外使う術が無い
それすら
霜降れば腐る。

あたしが
孕む日は果たして何時か
唐突に来るものなのだろうか
とうに裂けていると云うのに
これ以上
何をしろと云うのか。

生かして
置いてくれて有難うと云う
あなたは丸で気づいていない
その傲慢さを糾そうとしても
堂堂と
正義の旗を振り翳して。

要らないのに生かす必要があって?
腐るのに飾る真意は何処に?
必要な血は後どれ位?
要らないのに抱く必要があって?

希んでも希まれぬ事を問い詰めたい
何故頂点に君臨しても望む、
生きることを。

誰もあたしを食べたりしない
ヒトは栄えるばかり
衰えても生かして
何物もヒトを捕食しない
ヒトは栄えるばかり
壊れても生かして

求めたり慰めたり辱めたり貶めたり
もう全てを已めにしませんこと?
只、滅びて仕舞いましょう。
[2009/11/13 06:46] | 短詩 | コメント(0) |
●ふっか~つ!!!!●
だって、一ヶ月休んだら変な広告載って、『死にブログ』にされちゃうもんね!

さてさて、皆様、ご心配おかけしました。ようやくモモセ復活です。
一ヶ月死んでた~(笑)。いつ起訴されるんだろうとか、親に連絡行っちゃったらどうしようとか(むかっ腹立って自分で電話しちゃったけど)、もう生きた心地がしなかったです。
冤罪でお白州にお呼び出しなんて御免蒙りたい。

一ヶ月何していたかというと。
まず最初の二週間は相当ひどい精神状態で、ごはん食べられない、喋らない、気づけば自傷再発で左の腿と右の膝あわせて40針くらい縫うし(大馬鹿)。
切ったって無駄だってわかっていても、誰にも八つ当たりできないし、誰もわたしを助けられないから。
でもある時ふと『自分にあたるのもモノに八つ当たりするのも同じことだな』と思った。
自分の価値を貶めるだけ。
それはいやだ!!!!←と、プライドの高いモモセは思った。

って事で、後の二週間はとにかく動き回ってました。
とにかくひとりにならないように。ひとりきりで考え込むことのないように。
電車に乗って色んな所に行ってみたり、初めて高速バスで実家に帰ってみたり(普段新幹線)。
家にいる時間はとにかく寝る。睡眠薬飲んででも寝る。
仕事場はわたしにひどく同情的で、忙しい時期だけどいくらでも休んでいいと言ってくれた。
人情って有難いもの。今回の顛末を括るならこの一言に尽きる。

さて、これから何をしよう。どうしよう。
ストレスのメーターを振り切ってしまったワタクシは今、色んな事がしたくてたまらない。
小説だって、絵だって、彫刻だって、何でもアリです。

・・・そう、リハビリ期間だと思って温かく見守ってやってください^^;
改めまして、皆様大変ご心配をおかけしました。これからもよろしくお願いいたします☆*”

百瀬 遊
[2009/11/04 00:34] | ブログ | コメント(2) |
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*My Blue Heaven*


私の記憶の中から、思い出せる限りの事を『小説・文学』カテゴリに。   私の現在を、『ブログ』カテゴリに。

プロフィール

遊

Author:遊
Name:百瀬 遊(Yu Momose)
Birthday:01/28
Blood type: B
Sex:F

●がタイトルにつく場合ブログ、
*がタイトルにつく場合が小説です。

◆初期小説は、書き下ろしのノンフィクションを載せています。
※カテゴリ別に読んで頂ければ、多少なりわかりやすく表示されると思います。
※表記の多い、自傷、ドラッグ、売春はすでに卒業しています。
ドラッグと売春は犯罪ですので、(今更ですが)やっちゃダメな事です。
自傷は犯罪じゃないみたいですが、周りの人が痛いのであまりお勧めできません。
◆09年8月以降、フィクションを増やしていく予定です。
ノンフィクションの場合は題名に表記します。

※著作権・肖像権の侵害、あるいは転載などは禁止とさせていただきますので、よろしくお願いします。

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