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◆わたしのこと◆
 「そこから何か生み出せるなら、私は病んでいても狂っていてもいい。」
 そう想った。


 誰も私の心の中は覗けないし、私だって全ての人に理解されたいだなんて思わない。
 私に残った傷の事で、あれこれ言われるのはもううんざり。
 興味や過度の同情なんて要らない。
 だけど私はこうして書き綴る。

 「全ての人に理解なんてされたくない」、と、強がりを吐きながら、本性では「愛して欲しい」と願う。蔑視されたくない。嫌われたくない。痛いのはもう厭だ。

 今日、Coccoが表紙の『パピルス』を買った。
 自傷痕と拒食で、まるで末期ガン患者のようになってしまった彼女の写真を観て、記事を読んで、この人はもう数年も生きられないかもしれない、と思った。

 自傷が悪い事だとは思わない。
 自傷は正当な権利だ。脆くて翻弄されやすい心を自分に繋ぎとめるための手段だ。
 だけど、その傷を公に晒すのは、暴力だ。
 他人に嫌な思いをさせるだけ。
 有名無名にかかわらず、皆、体の傷も心の傷も一生懸命隠して生きてる。
 隠す事こそ道理で、晒すような事になればそれこそ、もう自分の生命を繋ぎとめる事で精一杯、他人の事なんて構って居られない、自暴自棄な状態なのだ。

 雑誌を読んで、「今まで私がこの場(ブログ)に綴ってきた小説は、これと同じ、暴力だ」と思った。
 ノンフィクションを書くと言う事。
 それは、今まであったつらい事や痛い事を無差別にばら撒いているだけ。
 それでも私は、書き綴る事で、自分の生命を繋ぎとめようと必死だったのかもしれない。
 だけど、書ける過去は大体書き尽くした。
 記憶の欠片さえ思い出せない期間も残っているけれど、それは無理に思い出そうとはしない。
 多分、思い出したら、自分が壊れてしまうから、無意識に自分自身を守っているんだ。

 これからは、少しずつ創作のものを入れて行こうと思う。
 私は10歳やそこらで壊されて、その修復も出来ないまま、10年以上、自分の城壁が崩れたら積み、崩れたら積み、を繰り返してきた。 
 今も、私の棲む場所、私の心は不安定で、煉瓦を積む作業は終わらない。
 一生かけても、終える事が出来ないのかもしれない。
 それでも、自己浄化の術に小説を用いるのは、そろそろ止めにしようか、と、思う。

 「愛する事がわからない」と嘆く人ほど愛情深い。
 私も本当はきっと、色々なものを愛しすぎているのだろう。
 だから、何が愛で何が憎しみなのか、何処からが病で何処からが正常なのか、判断がつかないんだと思う。
 私は、きっと、病んでいる。
 悪い方向に考えれば、一生浮世離れした暮らしをする事になるだろう。
 けれど、良い方向に考えれば、私は心を蝕まれているからこそ、何かを作り出す事が出来る。
 だから病んでいていい。狂っていていい。
 そこから何かうまれるなら。
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[2009/08/29 02:13] | 随筆―smoking room | コメント(2) |
●樹理亜さんの宿題●
こんばんわ、百瀬です^^
そういえば、すっかり忘れていた、雨宮樹理亜さんからの『バトン罰ゲーム』。。。
やります☆と云ってから…数か月…(ゴメンナサイ。。。)
アズキ
『私のお気に入り/絵or写真』
ベタのアズキ(♂)を描いてみました。
[2009/08/28 21:47] | ブログ | コメント(0) |
*指針*
 駅から歩き、彼の住むマンションが見えてくる。
 彼の住んでいるマンションの外壁は茶色の煉瓦で、でも日が落ちると周りのマンションやビルに融け込んでしまって見えない。
 そんな時、あたしは、夜空を見上げる。
 ちょうど七時を回った頃、建物の右斜め四十五度に金星が光っている。
 金星の光を見つめて、それから視線を少し下に落とす。
 部屋の電気がついていれば、あたしはそれだけで嬉しくなり、暗ければちょっと落ち込んだ気持ちになる。
 その部屋に居てくれるだけでいい。
 機嫌が良くても悪くても、仕事から帰った直後でも寝起きでも、ただ彼に会いたい。
 嬉しい事があったらその事を一から十まで詳しく話したいし、嫌な事があったら『今日は嫌な事があったんだ』とだけ云って、ほんの十分程度でも、ただその空気に甘えさせてもらうだけでいい。

 今日、彼の部屋は電気が消えていた。
 あたしはちょっとした失望と同時に、軽い安堵を覚える。
 ついさっき、嫌な事があって、それはとても重たすぎるもので、話すにはあまりにもつらいし、彼の顔を見て平然としていられる余裕も無かった。
 だから、彼が留守で良かった。
 それでも、ほんの少しだけ悲しくなる。

 あたしと彼は親友以外の何でもないし、けれど同性ではないから友情とはほんの少し違った曖昧な感情が二人の間にある事も確かだ。
 その曖昧な感情の指針が少しでもぶれれば、多分これは恋に変わるのだろう。
 だけど、その指針を揺らがせる為に同情を使うのは、卑怯だし未来は不安定になる。

 さて、今夜は何を買って帰ろう。家では旦那が待っているはずだ。
 あたしの作るごはんを楽しみに待っているはずだ。
 だけど、悩みというものは、旦那に相談なんて出来ない。
 「夫婦」になったら、お互いが心地良い「空気」でいるのが一番。
 愛して居ない筈が無い。だけど、旦那は恋人でも親友でも無い。家族だ。
 そう考えると、縛られた形になる。だけど縛られたくないから、あたしは彼やその他の友人と思いきり遊ぶ。
 普段から寡黙な旦那は交友関係が少なく、仕事が休みの日は家にいる事が多い。
 だから、旦那から見ればあたしは妻・兼・親友、と云った所なのだろう。

 彼のいないマンションの前を通り過ぎながら、鞄からポーチを取り出し、持ち歩いている精神安定剤を舌下に入れる。
 それはとても苦くて、口の中でどろどろに溶けて行った。
 自然な態度で家に帰らなきゃ。いつも通り、明るくただいまを云わなきゃ。
 …あたしは別の形でも縛られている。多分、自分自身の「こうしなきゃ」って云う偏った考えに。

 風のようにしなやかに形も無く、人々の間をすり抜けられて行ったらどんなに楽だろう。
 彼の長い腕や少し曲がった左手の小指を通り過ぎ、開け放した窓から旦那の寝顔を優しく撫でて、すっと居なくなるような、それでいて心地良さを感じさせられるような存在になれたら良かったのに。

 こんなぴったりしたスカートもビスチェも、踵の高い靴も要らない、重たい荷物も疲れた体もぼろぼろな心も何も要らない、性すら無いような存在になりたい。
 自分が女性である事が誇らしいけれど疎ましい、初潮を迎えてからずっと抱えて来た葛藤。
 自分が女性である事が有難いけれど憎らしい、男を知ってからずっと抱えて来た自身の軋轢。

 でも、今あたしの中の指針は、女性で居る事のメリットを指している。
 ほんの少し、中央寄りに。何度叩きつけられても、あたしのコンパスは壊れない。
 しっかりとアスファルトを踏みしめて、未練がましくもう一度彼の部屋を見上げる。
 やっぱり暗いままだ。
 今日の事は、暫くあたしの胸の中に縛りつけておこう。
 誰にも明かさない儘で。

 風が吹き抜けて、ゆらゆら垂れ下ったピアスを揺らす。
 そう、こんな風に汗ばんだ皮膚を愛撫するような、あたしの持つ様々な事柄への指針を左右しないような、風になってしまいたい。
 ヒトとしての体を重たく感じながら、あたしは早足で家路につく。

 金星は、もうあたしの右後ろに隠れて見えなくなった。
[2009/08/27 21:59] | 小説―light | コメント(2) |
●近況報告●
 お久しぶりです☆素の百瀬です(笑)。
 突然ですが、昨日、新しいタトゥを入れてきました^^
GF-1
 愛車のパジェロが今月で廃車になってしまうので、車体番号を、車を操作する右脚に入れました。後は、胸のタトゥのお直し。
 『ユウちゃんは自分で絵を描いて来てくれるから助かるわ♪私、絵を描くの苦手なんだもん。』
 ……それが彫り師の台詞か(苦笑)。

 7月8月は、暇な時と忙しい時の差が激しくて、振り回されっぱなしでした。
 特にお盆の前後は予測不可能。花屋の仕事とモデルの仕事が重なって、ウォーキングのランスルーをした午後に花屋でお葬式の仕事をし、次の日に毛皮かぶってランウェイ闊歩したりと、振り幅がかなり大きかったです。
 以上、小説休んだいいわけでした(笑)☆
 長編も楽しみにして下さっている方がいるのですが、今の所9月の彼岸(+連休)の花屋仕事が控えていて目途が立たず…(草稿はもうあるんだけど)。
 掲載は10月になるか、それか「ゆっくり更新」な形になりそうです。
 今しばらくお待ちくださいませ。。。

 今後ともよろしくお願いいたします♪
 以上、百瀬の近況報告でした☆
[2009/08/27 20:34] | ブログ | コメント(0) |
◆鏡◆
 街中で鏡を目にするたび、視線を遣ってしまう自分がいる。
 エスカレーター脇のミラー。ショウウィンドウの裏手の鏡。デパートの至る所に設置してある姿観。
 それどころか、道路脇に並ぶ店のガラスに映る自分の姿さえ、気にしてしまう。

 見た目は大丈夫。おかしなところは一つも無い。
 だけど、自分の顔を観た時に、鋭い目つきをしているな、と感じる事が屡ある。
 何も恐ろしい事や邪な事を考えているわけではない。けれど、なぜか目つきが鋭くなっていて、そんな自分の表情に気付くたび、このままじゃいけない、と思う。

 今日は久々に五反田の事務所へ行き、雑誌モデルの契約を取ってきた。
 タトゥの入った日本人モデルが欲しい、と云う変わった依頼に、事務所側があたしを推薦したのだ。

 契約が終わって、クライアントが帰った後、マネージャーが云う。
 『モモちゃんは、変わらないね。今も昔も、夢や野望が無いんだね。』
 その通りだから、あたしは反論できずに、そうかもしれませんね、と、流した。
 モデルとしてのし上がる事を心に決めていれば、こうして適当に仕事を受ける事も無く、毎日オーディション巡りに奔走して居るはずだ。
 花屋として過ごして行きたいのならば、もう少しアレンジメントや花の組み方を研究しているはずだ。
 それでもあたしは、そこまでハマるほど花を愛してはいない。

 あたしは、この年齢になった今も、自分の将来が見えない。

 帰り道、マネージャーの言葉を思い出して、ほんの少し目が潤む。
 あたしには目標が無い…改めてそう指摘されると、本当の事だからその言葉は胸に突き刺さる。
 容姿だけで稼ぐ事は簡単だ。だけど、それだって五年後にはどうなっているか分からない。

 あたしは何になったらいいんだろう?
 すっかり秋めいた風を受けながら、早足で家路を急ぐ。

 十代の頃から抱えて来た悩みは、大人になるごとに現実味を帯びてきて、いつまでも子ども心では通用しないんだな、と、思い知らされる。

 鏡に映る容姿もすべて、幻想。今日一日だけのあたしの姿。今一瞬だけのあたしの姿。
 鋭い目つきも疲れをにじませる表情も、逆に輝いた瞳も晴れやかな表情も、ただ一瞬を過ぎ去るものでしかない。

 心の中の鏡は曇ったままで、あたしは自分自身の姿が見えない。
 違う。鏡を磨こうとしないだけだ。
 それでも、鏡を磨きあげたなら、きっと過酷すぎる現実に耐えきれなくなってしまうだろう。 
 鏡を粉々に叩き割って、そのかけらで自らを刺し殺してしまうだろう。

 あたしを映すもの。あたしを取り巻くもの。あたしという存在の儚さ。脆さ。
 ミラーハウスに閉じ込められていても、鏡が曇っていて出口も何も分からない。
 目標、夢、野望と云う出口に辿り着けないあたしはしゃがみこんで、膝を抱えているだけだ。
 膝を抱えて、傷を舐め続けているだけだ。
 
 このままじゃいけない。逃げる事から逃げる事はしたくなかった。
 けれど、あたしは今日、自分の考えの甘さを思い知らされた。
[2009/08/25 22:32] | 随筆―smoking room | コメント(2) |
*パンドラの箱*
 宝物は、宝石箱にいっぱい。
 虹色が揺らめくメキシコオパール、怜悧な輝きを放つブラックスピネル、南洋の浅瀬のようなエメラルド。誕生日に貰ったガーネット、萌える若葉のようなペリドット。ルビー、サファイヤ、ダイヤモンド。

 全部あげるよ。箱ごと持って行って。
 モノで解決できる事なら、何だって持って行っていいよ。
 あなたの生命に比べたら、塵に等しいものだから。


 『わたしには生きている価値なんて無い』
 なんて、酔っ払って呟いて、クッションにもたれかかったまま眠ってしまったあなたの寝顔を見つめながら、そんなことないよ、と囁いてみる。
 グラスの中のウィスキーは、氷が溶けてすっかり薄まって、口に含むとひどく味気なく、ただアルコールの香りがしみるだけだ。

 彼女が『もう生きていたくない』と電話をかけてきたのは昨日の深夜だった。
 『とりあえず、あと十二時間は生き延びて』と云い、朝一番の新幹線に乗り、あたしは大阪へと向かった。
 日差しは強く、淀んだ湿気が寝不足の肌にまとわりついた。

 彼女の部屋まで携帯電話のナビを頼りに歩く。駅からすぐのマンションは公園の目の前にあり、蝉の声がやたらとうるさかった。
 部屋の鍵は開いていて、彼女はベッドの上に横たわっていた。狭い部屋の中で、テレビは点けっぱなしだ。
 彼女の青白い寝顔の隣には精神安定剤のカラが落ちていて、それを見たあたしは一瞬びっくりしたけれど、そんなに強くない薬だと云う事を知っていたから、とりあえず一安心した。
 彼女は、穏やかに寝息を立てている。

 テレビを消して、散らかったテーブルの上を見遣ると、PCのワードに手紙が書いてある。あたし宛だ。

 『ユウへ。
 突然あんな電話をしてごめん。でも、もう一人じゃどうしようもなかった。
 口に出して話すのはつらいし苦手だから、手紙にするよ。
 正直、もう疲れちゃったんだ。大里さんとの子どもを堕ろしてから、良い事なんて何も無かった』

 大里、というのは、彼女が昔付き合っていた男だ。
 ただし、彼女には本命がいて、大里とは遊びに過ぎなかった。
 けれど、図らずも彼女は彼の子を妊娠し、堕胎したのだ。もちろん、本命とも切れてしまった。
 そして彼女は、つらい思い出や自らの過ちから逃げるように、東京から大阪までやって来た。

 『自分には向いてないってわかっているのに何年もホステスやって、色んな場所を転々として、今日、私は三十になった。
 別に三十だからどうこう、ってわけじゃないけど、この先何も見えなくて、何をしたらいいのかもわからなくて。
 親には派遣の事務職やってるってずっと云ってたから、今更帰る場所もない。
 男に対しても、こんな仕事をずっと続けて来たから、もう正直信用できない。
 だから、もう、終わったのかな、って。わたしの人生、大里さんとの浮気の件で全部終わっちゃったのかもしれないね。
 たった一度の過ちで、こんな事になるなんて、人生ってパンドラの箱だね。
 憶えてる?ユウが昔話してくれた、決して開けてはならない箱を開けた話。
 好奇心で開けてしまったら、ありとあらゆる災厄が世界に飛び散った話。まさにその通りだったみたい。
 だから、もう絶望しか残っていなくて、死にたい。だけど、死ぬ勇気がないんだ。
 こんな事しか書けなくてごめん。でも、もうどうしたらいいかわからない。』

 あたしは一通り読んでから、PCを閉じる。
 ずっと一人ぼっちでつらかったんだね。だけど、パンドラの箱の物語には、もう一説があるんだよ。
 ありとあらゆる災厄が飛び散った後、箱の底に残されたたったひとつのものがあったんだよ。


 電話を受けてから全く眠っていなかったあたしは、彼女の隣に横になった。
 そして、慣れないベッドで夕暮れまでうとうとと眠った。
 公園からは、蝉取りに興じる子どもたちの声や足音が聞こえ、開け放した窓から吹き込む生温い風が奇妙な錯覚を生む。

 まだ世の中の汚い事も、金の事も、性差も知らずに夢ばかり膨らませていた頃。
 彼女とあたしは小学校に植樹してある木々から、蝉の抜け殻を集めて遊んでいた。
 その時、彼女が小さな悲鳴をあげて後ずさったので、あたしは彼女のもとに走って行き、どうしたの、と尋ねた。
 彼女は黙って、木の根元を指さした。
 そこには、羽化する途中で蟻にたかられ、餌食になった、無残な蝉の死骸があった。
 『抜け殻かと思って掴んだら、柔らかくて、死んでた…』
 『水道で手、洗ってきなよ。汚れたの全部流しちゃいなよ。』

 あれは、何かの啓示だったの?


 日も落ちて、地虫が低い音を奏で始める頃、彼女はようやく起き上がり、あたしを見て、
 『来てくれたんだ……ありがとう。』
 そう云って汗で額にはりついた髪をかきあげた。 
 彼女の富士額は昔の面影そのままで、ただその生え際から下の、綺麗に整っていた筈の顔は長く続けた不節制のせいで、昔と比べて頬はこけ、唇は薄紫色だった。
 長野にいた頃、彼女は誰よりも色が白く、それだけで美人と云われていた。
 上京してからも、その容姿はすれ違う人が振り返るほど綺麗だった。
 まるで、別人のようだ。

 『大丈夫?』
 『…うん、ユウが来てくれて、少し元気になった。』
 彼女は無理に笑って、シャワーを浴びてくる、と云い、バスルームに向かった。

 あたしはいけない事と知りながら、彼女のクロゼットをそっと開けてみる。
 水商売の女なら一つや二つ持っている筈のブランド物は一点も無く、スーツも所々ほころびて汚れ、クロゼットの床には督促状の束が輪ゴムで束ねられて散らばっていた。

 彼女の現状そのもの。あたしは静かにクロゼットを閉じた。

 シャワーを交代で浴びて、冷凍庫にあった惣菜を摘みに酒を飲む。
 酔っ払った彼女は、
 『もう駄目、借金取りがウチまで来るようになったし、家賃は滞納しているし、八方ふさがりで何処へも行けない』
 と、嘆く。彼女の話に耳を傾けるうち、彼女がどんなに荒んだ生活をしているかが改めて良くわかった。
 それでも、あたしにしてやれる事なんて慰め程度の助言しかない。


 二人して酔い潰れて寝たあくる日、目覚めたら彼女は部屋にいなかった。
 再び開かれていたPCには一言、本当にごめんね、とあった。

 彼女は、話すだけ話して、一人で逝ってしまったのかな。
 あたしは彼女を救えなかったのかな。

 悶々としながら、荷物をまとめ、地下鉄の駅へ向かう。
 駅の切符売り場で、財布を開き、『本当にごめんね』の意味が分かる。
 帰りの電車賃ぎりぎりを残して、現金が全て無くなっていた。

 なんだ。生きて行く根性、あるじゃない。

 いいよ、全部あげるよ、何だって持って行っていいよ。
 あなたの生命に比べたら、塵に等しいものだから。

 そのかわり、きちんと生き抜けよ。
 メールを送って、あたしは地下鉄のホームに降りた。

 『パンドラの箱の物語、もう一説知ってる?災厄が飛び散った後、箱の底には【希望】が残されていたんだよ。』
[2009/08/25 02:46] | 小説―light | コメント(0) |
*勿忘草*
 もうこれ以上、自分を貶めるのは止めにしないか、と『彼』が云う。
 ―――君はいつだってそうだ。男を手練手管で弄んで、勝ったつもりになっているだけ。
 本当はただ疲れるだけの「遊び」を繰り返して、その記憶で過去を埋めてしまいたいだけ。

 夜の住宅街に、あたしの靴音だけが虚しく響く。
 今日は散々に遊んだ。知り合ったばかりの男に煙草代からタクシー代まで出させて、貢がせて、別れ際のキス一つで更に火に油を注ぐような真似をして帰ってきた。
 帰りの電車の中でも、その男からはひっきりなしにメールが入ってきた。
 『気が向いたら、また連絡するかもね。』
 そう云って、気を持たせて、本心では舌を出す。
 消えちまえ、馬鹿で野暮ったい男なんて。

 アタシハ頑丈デ手強イ女。
 庇護欲ヲ煽ッテソノ気ニサセル、遊ビ上手デ自由ナ女。

 そんな事をして面白い?と『彼』が訊く。あたしは聞こえないふりをする。
 ―――虚しいだけじゃないの。君の求めるものは、そんな事ではどうしたって手に入らないよ。
 逆に、傷口を広げていくだけという事を、これだけ知っていても知らん振りをするの?

 あたしは嘘吐き。それで結構。
 歩きながら煙草に火を点けて、曇った夜空に向けてふっと煙を吐き出す。
 見上げた街灯に、小さな蛾や羽虫が光を求めて舞っている。 

 化粧を落として髪を解いたらただのありふれた女。
 作り込んでめかし込んで初めて価値が出る、包装紙とリボンのような上辺。
 包装紙とリボンはすぐに塵箱に棄てられるんだ。そんな事はわかっているんだ。
 そして箱と中身を出してしまえば、包装紙の柄やリボンの色なんて、すぐに忘れられてしまうんだ。 

 でも本当は、あたしの事を忘れて欲しくない。
 遊びで付き合った男だって、あたしの事を一生憶えていて欲しい。

 ―――違うだろう。憶えていて欲しいんじゃなくて、傷として刻み込みたいだけだろう。
 そうして、言い寄る男を傷つけて踏み躙って勝ち誇って、数えられないほど傷つけて、痛みを与える事で、自分の過去を少しでも浄化させたいだけだろう。

 煩い、煩い。
 そうだよ、あたしは確かに全ての男を憎んでいる。特に、あたしに対して欲望を抱くような男は呪っていると云ってもいい。
 この間、精神科医にも云われた。
 『君は十代の頃、売春をしていたと云ったね。生業としてではない売春と云うのは、心理学的に見て自傷行為なんだよ。特に、幼い頃に性的虐待を受けた人の場合は…』

 こんな男遊びだって自傷。わかってる。
 でもいっときだけでもちやほやされたい。ちょっとだけでも好かれていたい。
 愛する事はわからないけれど、愛される事くらいわかるから、愛される事以上の快楽なんて無いから、あたしは媚を売る。
 それは、いけない事なの?

 今日の男だって、あたしはあなたを明日にでも忘れてしまう。
 だけど、あなたにあたしをずっと忘れないで欲しいと願う我儘は罪なの?
 いい思いをさせてあげたんだからそれぐらい許してよ。
 甘い夢を見させてあげたんだからそれぐらい見逃して。
 そう吐き捨てたあたしを悲しげに見遣る『彼』は黙ったまま、溜息を吐く。

 『彼』はいつもあたしの傍で、真実を呟き続ける『あたしの良心』だ。
 『彼』の存在は、正直云って疎ましい。
 良心、なんて、そんなもの要らない。あたしを滅ぼしていくだけだ。
 あたしを壊していくだけだ。

 もう少しだけ、黙っていて。もう少しだけ、したいようにさせて。
 こんな事で気が済むなんてありえない。傷ついているのはあたし自身だって事もわかってる。
 こうして一人で静まり返った夜道を歩いていると、胸の奥が爛れているのを感じる。
 涼しい風を受けた髪が後ろに棚引くと、そのまま気が緩んで涙が出てきそうになる。
 だけど、こうせずにはいられないんだ。

 だけど彼はいつも呟く。
 ―――忘れないで、僕を。忘れてしまわないで、全てを。
 忘れられるわけがない、思い出したくもない過去の全て。
 忘れられるわけがない、あたしの本当のこころ。
[2009/08/24 23:35] | 小説―midium | コメント(0) |
●あと、どれくらい。●
 八月ももう半ばを過ぎた。夏らしくない夏が、終わろうとしている夜半の涼しい風。
 何時も想う。一年は、早すぎる。
 それでも、それが当り前の速度であって、『早い』と言い続けているあたしはきっと、何事も起こらない単調な人生にしがみついて生きている、夢見がちで慾深い人間なのでしょう。

 交差点の信号が青に変わって、向かい側から人の波が押し寄せてくる時に、小さな恐怖を感じる。
 それぞれの性格や人格や、歩んできた人生を背負った個人個人が、『人混み』というカテゴリにいっしょくたにされて、そしてその中にはきっとあたしも含まれている。
 あたし自身も、全く関係の無い他人から観れば、『その他大勢』のうちの一人だ。
 そう思われる事は別に悲しくは無いけれど、あたしが人混みに感じる『無機質さ』を、他の人にも与えているのだろうか、と思うとほんの少しだけ悲しい。

 一年は、早すぎる。
 そう思うのは、自分が慾深い証拠だ。
 あれもしたい、これもしたい、だけど忙しさにかまけて何もできなかった、嗚呼もう今年も三分の二を過ぎて、結局あたしは何も出来ていない。
 何者にもなれていない。
 だけど思う。
 何者かになりたいって言う事は、何らかのステイタスを求めているという事だ。
 そんな物が無くても、あたしは日々幸福を見つけては、楽な方に楽な方に流れて生きてる。
 それじゃ満足できないのかな。日常でひとかけらの幸福を見つける事に、自分は恵まれていると感謝したことすら、指の隙間からぽろぽろとこぼれて、最終的には、『一年は早すぎる。あたし、何も出来ていない。』  

 あと、どれくらい、こんな事を思い続ける日々が続くのだろうか。
 一年は早いだなんて、一年はあっという間だなんて、そう思ってしまう自分を変えられる日は何時になったら来るんだろう。

 全力で駆け抜ければ、その分一日も一年も短くなってしまう。
 本当に、あと、どれくらい、あたしは成長すれば良いのだろう。

 蝉が必死に喚いている。彼らは、子孫を残す事で精一杯だ。
[2009/08/19 04:12] | ブログ | コメント(2) |
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*My Blue Heaven*


私の記憶の中から、思い出せる限りの事を『小説・文学』カテゴリに。   私の現在を、『ブログ』カテゴリに。

プロフィール

遊

Author:遊
Name:百瀬 遊(Yu Momose)
Birthday:01/28
Blood type: B
Sex:F

●がタイトルにつく場合ブログ、
*がタイトルにつく場合が小説です。

◆初期小説は、書き下ろしのノンフィクションを載せています。
※カテゴリ別に読んで頂ければ、多少なりわかりやすく表示されると思います。
※表記の多い、自傷、ドラッグ、売春はすでに卒業しています。
ドラッグと売春は犯罪ですので、(今更ですが)やっちゃダメな事です。
自傷は犯罪じゃないみたいですが、周りの人が痛いのであまりお勧めできません。
◆09年8月以降、フィクションを増やしていく予定です。
ノンフィクションの場合は題名に表記します。

※著作権・肖像権の侵害、あるいは転載などは禁止とさせていただきますので、よろしくお願いします。

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